坪井香譲の文武随想録

時に武術や身体の実践技法に触れ、時に文学や瞑想の思想に触れる。身体の運動や形や力と、詩の微妙な呼吸を対応させる。言葉と想像力と宇宙と体の絶妙な呼応を文と武で追求。本名、繁幸。<たま・スペース>マスター

リラックスは奥深い / 随鏡記(1)

指揮者の故小澤征爾氏は、ドイツのカラヤン、アメリカのバーンスタインを師としたが、もう1人フランスの巨匠、シャルル・ミュンシュにも大きな影響を受けたと告白している。 ミュンシュは、ある時小澤に「リラックス! リラックス! リラックス!」と三度も…

御岳と「深緑色の宝石」

コロナでなかなか登れなかった御岳に、ようやく泊まれました(10月24日~25日)。一人稽古をし、最後の日の暁方、目覚めの寸前、とても興味深い夢を見ました。 それは、靄(もや)のような少し揺らめく目前の空間中に、深い緑色の大粒の宝石の指輪が現われた…

「コロナと人間の知」・特別編

人間の「原点」へ 身体術「指南杖」の発見 ある時は広やかに宇宙とつながっているような肯定感とともにある自分。一転ある時は儚く弱々しく孤独でとるにもたらない自分。本来の自分はどこに? どうしたら達することができる? 「指南杖」がそのヒントになる…

「コロナと人間の知」(5)

黄色いヘリコプター 私自身の体験で、ちょっとした不思議なことを述べます。といっても怪異や神秘的なことでもありません。ただ、何十年も、ごく最近まで心に引っかかってきたことです。 テレビをはじめて見に行く 私が、小学校五年生の時、広島市の学校に編…

「コロナと人間の知」(4)

「詩」の働きとは?(承前) 戦国策士の詩の心 官兵衛に限らず、牢に封じ込められた者が、そうした動物、植物等と遭遇して慰められるどころか、時に人生観、宇宙観を変容してしまう程にインスパイアされた、と伝えられる例も少なくありません。(それは現代…

「コロナと人間の知」(3)

「詩」の働きとは? 黒田官兵衛 牢で藤を見る 前編で触れた、玉城康四郎先生の「全人格的思惟」そのものを、私がここで自己流に解説するよりも、もしできれば玉城著『新しい仏教の探究 ーダンマに生きるー』大蔵出版社刊や『仏道探究』春秋社刊等を読んでい…

「コロナと人間の知」(2)

知の楽しい冒険と戦慄すべき例と 将棋の藤井聡太七段は、僅か十七歳で最強とされる先輩棋士を破ったが、その際の一手は四億通りの手をすぐに解読してしまうA Iでさえ、その手の妙手であることを見抜けなかった、といいます。私も含め何とも言えぬ愉快と魅力…

「コロナと人間の知」(1)

顔をマスクで覆う私たち 色々なことが覆われている 「コロナ」は未曾有な状態に人類を封じているかのようにも思われます。 その特色の一つは雲行きが非常に「曖昧」だということでしょう。曖昧模糊と言った方がいいくらいでしょうか。 大体、この病気の発生…

「あまつかぜ」の展開 (1)

私は、わけあって少年時代から様々な瞑想法や行法、弓道、神道のみそぎ行、ヨガ、合気道や剣術、気功や呼吸法、その他様々の身体技法に触れてきました。 ここでは詳しいことは省きますが、その「わけ」とは、一口に言うと自らの存在(イノチ)の根拠を明らか…

坪井香譲の新著 『呼吸する身体ー武術と芸術を結ぶ』(新泉社)発刊ー2

書影 https://www.amazon.co.jp/呼吸する身体―武術と芸術を結ぶ-坪井-香譲/dp/4787719122/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1551945563&sr=8-1&keywords=呼吸する身体

坪井香譲の新著 『呼吸する身体ー武術と芸術を結ぶ』(新泉社)発刊ー1

チラシ

踵(かかと)で呼吸する ― 理想の息へ

〈あまつかぜ〉― ラセン 円転動作と呼吸の融合 身体活動に欠かせない様々な側面が、この〈あまつかぜ〉には渾然一体として入っています。昨年、テキスト『身体を実感する―〈3R〉』でも触れた〈身体の文法〉の全てが、自ずと入っているし、これまで気流法で…

<腹・ハラ>という<原郷> ― その1

流れ動く絵姿のように……武原はんを訪ねた 私は、二十歳代の中頃、二年間程ある小さな出版社で小冊子の編集を受け持っていた。私の出す企画は、私自身がこれは、と思わされた職人、芸術家、スポーツマン、武道家などの工夫や訓練、創造のコツなどを本人から聞…

人間の原郷<ハラ・肚>と<フトコロ・懐> 2

<ハラ>ともののあわれ 前の章 1では、元来のタイトルに沿って<腹>または<肚>について書こうとしていた(以下、腹・肚を<ハラ>と表記)。 ところが、― 自分で後で気付いたのだが ― テーマは<詩>になってしまった。それには理由がある。 <ハラ>は…

人間の原郷<ハラ・肚>と<フトコロ・懐> 1

武道と瞑想と共に<詩>があった 私が若い頃に出会った二人の先生がいた。といっても学校の先生でない。それぞれ道場で指導していて、私が訪ねてゆき、数年以上、時には毎日のように出会い、とても親しく様々なことを教わった、瞑想と武道の師である。 瞑想…

ブログ再開

しばらくブログを休んでしまいましたが、その間稽古内容は私なりにはとても進化していました。それは、劇的な程の変化を伴う程で、むしろ、書いて記録し、報告する方がどうしても遅くなってしまう程でした。 その内容の一部は後述する、この程完成したテキス…

肉体と芸術創造  芸術におけるもう一つの視点(後編)

存在の呼吸 造型美術──絵画となると、肉体の役割はさらに鮮明となると同時に外面的な動きやポーズと作者の〈内面〉の関係が微妙に呼応してゆくプロセスとその構造がはるかに見えやすくなる。 ポール・クレーは、頭で描くのだ、手で描くのではないというミケ…

肉体と芸術創造  芸術におけるもう一つの視点(前編)

ブログ再開にあたって しばらく休載してしまったブログを続けます。 なぜ休載してしまったかというと、私自身の稽古(身体技法・∞気流法と武術の稽古)に、大きな、予想を超えたような変革が生じたからではないか、と自分では感じています。 それは私の術の…

坪井香譲 サマーディ(Samādhi、三昧)の舞

坪井香譲 サマーディ(Samādhi、三昧)の舞

人の原点、〈歩く〉からはじめる

ヒトが人間となった原点とされる「直立二足歩行」。遥か数百万年も前からこの二十一世紀まで、人類は歩き続けてきました。 人は直立二足歩行によって、道具の使用や言葉の獲得など…様々のことが可能になりました。そうした能力の獲得から、文化、文明も進展…

無底船、大海に浮かぶ — 掌(てのひら)とヘレン・ケラーと空手と

〈手の内〉というのは、たとえば将棋で、相手方の駒を奪って、自らの手元に置いて、必要があればいつでもそれを使えるようにしておくことを言います。 また剣術では、剣を、主として両手で握って操るための両掌の使い方を〈手の内〉といって、大切なこつの一…

人間の本質は「たま」である

身体技法の妙・「うづたま」の舞動 渦巻き、反転、変幻自在 まったくはじめての人も加わって遊ぶ うづたまでパフォーマンス 佐藤響子(ピアノ演奏・藤本静江) 中玉・大玉のひとり舞い動き 坪井香譲

〈足の内〉にこそ原郷が ―〈うづたま〉によって気付かされた―・後編

結局、生きるものは巡り、うづ巻き、円転している さて、先の四つの〈文法〉に沿って色々と工夫し、稽古し、人々にも勧めてきたのですが、実は最近、もう一つとても大切なことに気づかされました。 それは、それらの四つの「身体の文法」は、互いに別々の原…

〈足の内〉にこそ原郷への道が ―〈うづたま〉によって気付かされた―・前編

ある日、稽古の途中で… 今年、2014年10月4日(土)の午後、けいこ場のたま・スペースで少数の人たちと武道―やわらげ―の稽古をしている最中、一人が、手の内と足の関係はどうなのかな…?と、つぶやくのが聴こえました。「手と足…」その瞬間、私はそう…

やわらを入れる(第二部)『もうひとつのからだへ』【手のひらと指が世界に接する】の章―〈3〉

リルケの直感と空手道 ここに出てくる〈天〉とは何だろうか。たとえば孔子が、期待していた最愛の弟子顔回に若くして先立たれ、思わず「〈天〉我を見捨てしか」、と嘆いた〈天〉。五十にして天命を知るの〈天〉…。〈天〉は、私たちが俗に神というニュアンス…

やわらを入れる(第二部)『もうひとつのからだへ』【手のひらと指が世界に接する】の章—〈2〉

〈手の内〉を明らかにする… 我国の剣術では、両手で剣を把るのが通常である。その働きを〈手の内〉と言って、とても大切にする。 剣の柄を、布巾を絞るように握る、という教えもあるらしいが、これはおそらく、ごく初心のためのものだろう。大体布巾や雑巾も…

やわらを入れる(第二部)『もうひとつのからだへ』【手のひらと指が世界に接する】の章—〈1〉

手首で弟子と女友達をチェックする 上半身を左右に大きく振りながらピアノの弾き語りをした盲目のソウル・ミュージックの巨人レイ・チャールズ(1930〜2004)は、多くのポップ・ミュージックの人気者のように、大活躍しながらも、個人的には様々な苦悩にさら…

やわらを入れる(第二部) 『もうひとつのからだへ』【赤児とマイケル・ジョーダンと仏陀の舌 】の章 ‐ 〈3〉

美しさは味が源になっている 美(うつくしい) 義(ただしい) 善(よい) 美は、羊(ひつじ)を正面から見たところと胴体を上から見たところを組み合わせた象形文字である(白川静著『字源』以下同) この美しい立派な姿の羊は、選ばれて祈りや儀式の際、犠…

やわらを入れる(第二部) 『もうひとつのからだへ』【赤児とマイケル・ジョーダンと仏陀の舌 】の章 ‐ 〈2〉

仏陀、粥を食す ― スジャータの話し 長い歴史を通して、人類の多くに道徳や生き方など、たとえ変形されたり、都合よく解釈されることがあったとしても、精神上の価値を支える柱になってきた思想を生み出した者達。 釈迦、キリスト、ソクラテス、孔子、老子等…

やわらを入れる(第二部) 『もうひとつのからだへ』【赤児とマイケル・ジョーダンと仏陀の舌 】の章 ‐ 〈1〉

舌を出して身を沈める バスケットの神様と謳われたマイケル・ジョーダン(1963~)は、そのプレー中の振る舞いに非常に特別なものがあった。それは、その長い舌を出しながらの動きである。取り囲んでくる相手チームの何人かをかわし、抜けようという時に舌を出…